今日、楽しかったな。

「最後の日」というフレーズがつきまとった。

 


9時から受付で任務をこなしていると、親御さんからうちの子に水筒を届けてくれ、と頼まれた。

引き受けて、受付の片割れの人に今持っていったらと言われたので、階段を上がって持っていった。

先生のクラスを通り過ぎると、先生と、いつもちょっと不安定な女の子がいた。水筒を置いてから先生のクラスに戻った。こんな時間にこんなところで担任が、1人の子にとられているのはお困りだろうと思ったからだ。ちょっとトイレに失敗したというその子と、その子のパンツを持った先生。着替えようという先生と、拒否しているその子。その子はとてもナイーブで、気が乗らないことが多い。でもわたしは女性だからか、気持ちを打ち明けてもらえることが多い。若い男の先生には気遅れすることもあるだろう。代わってくれるように先生に言い、その子を引き受けた。着替えも無事済み、行事の開催前に体育館にその子を送り届けることができた。体育館をのぞいたらすぐに先生は寄ってきて、わたしは教室で着替えたことを伝えた。

 


先生の出し物の後、受付の仕事も終わったのでさてこれから会を見物しようか、と座ると、宮本くんが目を押さえた子供を連れて出て行った。ふーん、と座ってたのも束の間、いやいや、また担任が席を外して、支援員があぐらかいてるとかないわ、と思ってわたしも後を追う。目が痛いというその子は目を洗っていて、わたし見ましょうかと先生に話しかけたけど、先生は戻らなかった。さっきはありがとうございます、と言ってわたしに寄ってくるので、のけ反りつつ、離れ過ぎないようこらえる。イケメンが近づいてくるのはものすごい威力なのだ。さっきの事の顛末を説明するけど、うまく伝わらない。ちょっとよくわかんないですけど、て言われた。今思うと恥ずかしい。わたしの後ろに付けている宮本くんを意識しながら、僅かな時を楽しんだ。

 


行事が終わって片付けていると、用務員のおじさんに意地悪をされて、重い机を1人で運ぶ羽目になった。あぁ、かなり無理しないと駄目だ、誰か通りかからないかなと思っていたら、ハタと高橋先生が通りかかって、目が合うとすぐ、あ、運ぶの大丈夫ですか、と聞いてくれた。正直大丈夫ですと言えるほど軽い机ではなく、素直に頼ることにした。高橋先生は自分が運んでいた物を持っていってから、戻ってきて手伝ってくれた。僕1人で行きましょうかと言うけど、悪いのでわたしも持ちますと言った。2人で持つと軽い。誰かに運べって言われたんですか、と聞いてくれたから、はい、用務員のおじさんとかに、と答えたら、それは◯◯さん、ダメですね、ってフォローしてくれた。教頭に聞いた部屋が怪しいというから、もう一回聞いてくれた。でもやっぱりその部屋だっていうのを、先生は僕は国語準備室だと思ったんですけどね、と言いながら言われた部屋に2人で運んだ。昨日腹を立てていたババ先生を手伝わなかった先生が、わたしをさっと手伝ってくれたことを喜んだ。

 


教材室に運んでいる時に宮本くんが横切って、手伝ってくれた先生にお礼を言って教材室から出ると、宮本くんが戻ってきた。あら、イケメンの後にイケメン、と思ってたら、さっきは本当にありがとうございましたとお礼を言ってきてくれた。さっきうまく説明できなかったことを、もう一回してみたら伝わって、ああ、やっとわかりましたと喜んでくれた。その話というのは漏らした原因のことで、わたしは何度も先生の前で黒パンとパンツを脱ぐ仕草をし、パンツだけ脱ぐのを忘れたということを伝えたいのに伝わらなくて、トイレの話を先生としてることに内心萌えていたのだけど、トイレに行った時のことだという情報が抜けていて、伝わらなかったのだとやっとわかった。日本語が下手すぎる。

 


昼休み、2階の窓から宮本くんが晴れた校庭で子ども達と鬼ごっこをしているのが見えた。子どもの様子も見に行こうと思っていたので、慌てて降りていく。ちょっとシャツの裾を出しながら、スーツの上着を脱いだ若いイケメンが走っている。キラキラと初春の日差しを浴びて、白いシャツを眩しく光らせて、陸上部出身の宮本くんが走っている。マスクをしているのをいいことに、児童玄関から格好いい、あー、めっちゃ格好いい、と好き放題に呟いていた。

休み時間も終わろうという頃、ゴールポストで人だかりができていたので誰か怪我したかな、と走り寄っていったら、思わぬ大怪我で、その子が使っていたティッシュで止血した。前の美少年だった。ポタポタと垂れる鮮血に、わたしも興奮してしまったのかもしれない。その後から終わりまでずっとハイだったような気がする。今日という日の非常事態、非日常、緊急事態に、アドレナリンが出たのかもしれない。手で止血しながら、うまく通らない指示に考えをあぐねながら、保健室まで連れて行った。自分の手にべたりとついたあの子の鮮血は、流すのが惜しい気がした。この子の血を嬉しく感じるほどだった。よく考えたら、歩かせるのも危険だったかもしれないので、抱っこなりおぶるなりしてもよかったかなと思った。それをするには血が凄かった。

 


掃除の後に宮本くんに封筒のことを伝えたけど、ちょっと忙しい時だったみたいで失敗した。その後、Yくんを見逃したのを、T先生と宮本くんが対応してるのを見てショックだった。その反動か、Yくんの話をゆっくり聞いたわたしは、教務の先生に促され、その場を後にした。最後だから、自分の衝動に任せた。もうちょっと、Yくんのこと解決してあげたかったな。その衝動もほんと。

 


今日はいろんなきっかけが、嬉しいハプニングやラッキーに繋がった不思議な日。最後だから神様がくれたのかも。もう会えることはないかもしれないけど、卒業式で一回だけ会えるかもしれない。その先は自分で決められるんだけど、最後までわからない。